ものづくり補助金の応募要件について

ものづくり補助金の申請をお手伝いすることになり、改めて今年度の公募要領を確認していたのですが、今年はこれまでと応募要件が大きく変わっています。昨年(平成30年度補正)までの要件は、「3~5年で付加価値額年率3%及び経常利益年率1%の向上を達成する計画」だったのですが、今年(令和元年補正)からは、以下の3つの要件を満たすことが必要になっています。

  1. 給与支給総額+1.5%以上/年
  2. 付加価値額+3%以上/年
  3. 事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30 円の水準に

さらには、事業計画終了時点で要件①の給与支給総額の年率1.5%増が達成できていなかったり、事業計画中の毎年3月時点で要件③の事業場内最低賃金の増加目標が達成できていない場合は補助金の返還を求めるという、申請要件に反する場合の返還規程が新たに設けられました。また、申請時に賃金引き上げ計画を従業員に表明することが求められ、もし補助金交付後に表明していないことが発覚した場合は補助金額の返還を求めることも盛り込まれるなど、補助金交付と引換えに賃金アップが強力に促されているのが印象的です。

確かに、補助金によって先進的な装置やシステムを導入することで生産性(=従業員1人当たりの付加価値)が上昇すれば、労働分配率を極端に下げない限りは賃金が上昇することになるので理論的には賃金の上昇は可能となりますが、現在は消費増税に新型コロナが加わりデフレに再突入している状況です。生産性をいくら高めたところで、それに見合う需要があるかどうかの見極めが非常に難しい状況ですので、現時点で人件費の上昇をコミットすることは経営者としては大きなリスクになるのではと思います。

実際に、これまでは年間で20,000~30,000社の応募があったのに比べて、今年は第2回公募(全5回)までで約8,000社と比較的少ないのもこうしたことが原因かもしれません。ただ、逆に採択率は60%近くと過去最高となっているため、もともと成長性が大きい事業分野への設備投資を予定していた企業にとっては今年は有利な状況にあるように思います。